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横浜地方裁判所 昭和56年(ワ)1416号 判決 1983年5月12日

原告

春山商運有限会社

被告

中部急送株式会社

ほか二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告らは各自原告に対し金六二九万四九八七円及びこれに対する昭和五六年一月九日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

日時 昭和五六年一月九日午前一時一五分ころ

場所 兵庫県西宮市塩瀬町名塩字シヨウブ中国従貫自動車道下り二五・三キロポスト

加害車 普通貨物自動車岐一一う四八八七号

加害運転者 亡坪井幸一

被害車 大型貨物自動車横浜一一き四〇一九号

被害運転者 亡石井忠

事故状況 前記日時場所で追突して停止中の被害車に加害車がさらに追突、このため被害車は炎上焼失、加害運転者被害運転者とも焼死

2  帰責事由

(一) 被告坪井

事故は深夜で暗く照明設備を全く欠いた高速道路上を、制限時速五〇キロメートル以上八〇キロメートル以下のところを時速二〇ないし二五キロメートルで進行していた訴外新田易運転の自動車に被害車が追突し停止していたところへ加害車が更に追突したものであるが、道路運送車両の保安基準三二条によると前照灯は夜間一〇〇メートル前方の障害物を見通すことができるようになつていなければならないから、加害車もこの程度の性能を有していたはずであり、加害車が制限速度を守つて走行していれば、その制動距離は七〇数メートル程度であるから、被害車との追突を目避できたはずである。従つて加害車運転者亡坪井幸一には前方不注視等の過失があつたというべきである。

亡坪井幸一は右の過失により、前方で追突事故を起こして停止中の被害車に自車を追突させ被害車を破損させるとともに炎上せしめ、積荷とともに焼失させた過失があり民法七〇九条の責任がある。

被告坪井は右坪井幸一の唯一の相続人である。

(二) 被告会社

被告会社は亡坪井幸一を使用してその業務に従事させていた所、右業務に従事中本件事故が発生した。

(三) 被告広瀬

被告広瀬は被告会社に代つて亡坪井幸一を監督する立場にあつた。

3  損害

(一) 車両損 金二二〇万円

原告所有車両は事故直前四四〇万円の価値を有していた所本件事故により焼失したが、少くともその価格の五〇パーセントにあたる金二二〇万円は被告の過失による損害である。

(二) 積荷損 金一一三万四三七六円

原告車に積載中の積荷は被告車の追突によつて発生した火災によつてすべて焼失したが、これら積荷は訴外株式会社裾野サンワより原告が委託を受けて運送中であつたため、原告は右訴外会社に積荷の時価金一一三万四三七六円を支払つた。

(三) 休車損 金三〇万七二九九円

原告は本件焼失によつて原告車を失つたが、代替車の購入稼働には一ケ月を要する所、その間、金三〇万七二二九円相当の営業損を被つた。

(四) 日本道路公団よりの請求 金二一五万三三一二円

被告車の追突による原告車の炎上の結果、路面も一部焼失し、その補修費として原告は日本道路公団より二一五万三三一二円の請求を受けている。

(五) 弁護士費用 金五〇万円

被告らは任意に支払わないので原告は弁護士山登健二に本件訴訟を依頼し、金五〇万円を支払う旨約した。

4  結論

よつて原告は被告らに対し連帯して金六二九万四九八七円とこれに対する不法行為の日である昭和五六年一月九日以降完済まで民法所定の年五分の割合の遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  認める。但し加害車の追突と被害車の炎上との因果関係は争う。被害車は事故より早く先行車に追突したことにより出火して、火はキヤビンから荷台に燃え移つていた。積載品は可燃性のウレタンホーム等であり、被害車とその積荷は加害車の追突がなくとも焼失を免れなかつたはずであり、原告主張の損害は加害車の追突と相当因果関係にない。

2(一)  加害車前照灯が原告主張の能力を備えていたはずであるとの判断、制動距離に関する判断、亡坪井幸一に前方不注視等の過失があつたとの判断はいずれも争い、加害車の追突により被害車が炎上したことは否認し、その余は認める。

(二)  認める。

(三)  争う。

3  知らない。なお事故及びこれによる道路の損傷はもつぱら高速道路に照明設備や仮眠のための待避所を設けない日本道路公団の道路管理の瑕疵に帰因するから、原告及び被告らの訴外日本道路公団に対する債務は発生していない。

三  抗弁

1  過失相殺

被害車運転者石井には前方不注視又は居眠り運転(過労運転)の結果前車に追突し、二車線にまたがつて後続車への警告措置をとることもなく停止した過失がある。

2  寄与度

加害車が追突したときには被害車前部は既に炎上中であり、被害車の積荷は可燃性のウレタンホームであつたから、追突が無くとも炎上は免れず、道路のこれによる損傷も免れなかつたことは前述のとおりであり、加害車の追突により増大した損害の部分というものは、あつたとしても極く僅かで、被告らの責任は、寄与度又は割合的、部分的因果関係の理論により大幅に減ぜられるべきである。

四  抗弁に対する認否

追突時の様子、追突の原因は石井が死亡しているため不明で認否ができない。

第三証拠〔略〕

理由

原告の主張は、加害車の追突により被害車及び積荷が炎上し、よつて損害を蒙つたというにあるから、まず火災の原因について判断する。

いずれも成立に争いがない甲第六号証の一ないし四、第八ないし第一一号証、乙第八号証、同第九号証によれば次の事実が認められ、これに反する証拠はない。

被害車の先行車運転手新田曻と、現場に居合わせた高松憲明とは共に被害車運転手石井を運転席から救出しようとしたが、被害車前部が衝突のため内側に押出されて同人の足がはさまれ、容易にこれをなし得ないでいるうち、既に助手席下やボツクス辺からはプスプスという音と共に白煙が立ち昇り、被害車が先行車に衝突した後五分程経過したころに更に加害車が追突し、同じころ(衝突と同時であつたか否かは証拠上判然と確定し難い。)白煙は黒煙にかわり、左前部から火が出始め、これが運転席の方にも流れる一方助手席下部を伝つて荷台に燃え移り、更にその炎が加害車にも移り、炎上するに至つた。

被害車の火災は前部の電気系のコードが外力を加えられて被覆の破損等を生じ、短絡による火花、灼熱が被覆を燃焼させるに至つたことが原因であり、初めに生じた白煙は、コードが灼熱された当初発生するものであり、被害車左前部にはラジエーターのシヤツター用カーテン、助手席左側にはクーラーホース(ゴム製)、ヒーターホース(ゴム製)という燃焼を媒介するものがあつた。

また前掲各証拠及び成立に争いがない乙第七号証によれば新田曻運転のトレーラーは被害車の追突を受けたあと自力で運行し、被害車とは離れた位置に停車したこと、鎮火後被害車の左前部は道路南側の上り勾配法面のブロツク積擁壁に殆んど接するばかりの状態にあつたこと、車体は第一走行帯を完全に塞ぎ後部右側一部を第二走行帯にはみ出す状態であつたこと、加害車は被害車後部にその前部を接し、前部右側一部分は第二走行帯に、後部は第一走行帯にあり、全体としてわずかに右に斜向した状態で停止していたこと、加害車の衝突による被害車の位置の移動は、前輪を中心とする回転運動により、その後部が直線距離にして五メートル程度であつたことが認められ、これら事実によると被害車、就中その前部は加害車の追突によつて直接の打撃を受けなかつたことは勿論、改めて他物体に衝突することもなかつたものと推認しうる。

以上の事実に基づいて考えるのに、被害車は加害車の追突以前から火災の原因となつた燃焼を始めていたのであり、加害車が衝突したことにより新たに燃焼の原因を作つたとか、火勢を強めたとは認め難いといわなければならない。白煙が黒煙にかわつたという点はゴムに着火したことを示すようにも思われるが、衝突による衝撃が着火を促したとも認めるに足りない。

たしかに成立に争いがない甲第四号証中には「その衝撃により石井車から発火くすぶつていた火勢を一気に強め炎上させ」という記載、「車両は衝突の衝撃により発火し、二次事故により炎上、全焼した」という記載があり、被疑者(坪井幸一)死亡の業務上過失致死(石井忠の)被疑事件について、送致警察官は加害車の衝突が被害車の炎上の原因力となつているとの判断に達したことが認められる。もつとも同号証中には、被疑事実中に石井忠の死亡原因について、「よつて同人を内臓破裂等により云々死亡させた」との記載が見られ、甲第一一号証によれば、石井は既に先行車に追突した直後から腹痛を訴えていたと認められること等にてらすと被疑者死亡の事件の被疑事実の把握をどの程度厳密に考えたかをあやしまざるを得ないが、それを措くとしても、炎上の因果関係を記す部分は到底納得し難い。炎上の次第は先に認めたところに尽き、坪井幸一運転の加害車の衝突がなぜ火勢を強めたかの理由を見出すことができないからである。

成立に争いがない甲第一三号証(新田曻の検察官に対する供述調書)中には、加害車の衝突のため今まで煙であつたものが火にかわつたとする部分があるが、具体性に乏しいし、同調書自体、他の証拠、弁論の全趣旨により事故当時全く照明設備を欠いていたことの明らかな高速道路が水銀灯に照らされていたとしたり、殊更会話調で記載するなどしている点があり、いささか信用性に乏しいものと言わなければならない。

そうすると被害車の炎上により原告の蒙つた損害は仮に認められたとしても、これを加害車の運転手坪井幸一の行為に帰すべき事実の証明がないことになるので、被告らに対する請求は、その余の点に判断を加えるまでもなくいずれも理由がないことになる。

(原告が日本道路公団から受けた原因者負担金の納付命令は被告らを拘束するものではないし、火災の原因を加害車運転者に帰することもできないのであるから、原告のこの部分の請求も理由がない。)

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 曽我大三郎)

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